AI時代に消える仕事・残る仕事・生まれる仕事がある。消える仕事にフォーカスされがちで、私たちは不安を覚えたりしている。そこで、ここではAIによって新しく生まれる仕事にフォーカスして、私たちの未来に光を当てたい。

AIによって3億の仕事が自動化される

こちらの記事でも書いた通り、ゴールドマンサックスは現在ある3億の仕事が、AIによって自動化されるという報告をした。また、生成AIだけで世界のGDPを7%上昇させるという試算も出した。

これらの数字を見る限り、私たちの世界は新しいフェーズへ入ったと言える。生産性の非常に高いAIは私たちの仕事を奪うのだろうか。それとも、私たちに夢と希望を与えてくれるのだろうか。

MITの経済学者デビッド・オーターによると、私たちが現在ついている全ての仕事のうち60%は、1940年には存在しなかったという。技術の革新とともに多くの仕事が作り出されてきた。今回のAI革命もまた、これまでになかった新しい仕事を生み出すだろう。

AIによって新しく生まれる仕事選

AIによって新しく生まれると考えられている仕事を5つあげてみよう。

1. プロンプトエンジニアリング

AIによって新しく生まれる仕事_プロンプトエンジニア

ChatGPTの出現とともによく聞くようになった言葉だ。プロンプトエンジニア(PE)はすでに求人にも載っていて、アメリカでは年俸3000万円ほどである。

プロンプトとは、生成AIに投げかける言葉のことで、AIにプログラミングコードなどを作ってもらうことをプロンプトエンジニアリングという。ChatGPTは自然言語処理(NLP)を使うため、私たちが普段使っている言葉でやり取りすることが可能だ。

「我々の使っている言葉でもいいのか?それならば簡単ではないか」と思ってしまうが、プロンプトエンジニアリングはそんなに単純ではない。使う生成AIの種類によって独特なクセがある。それを掴んで適切な言葉を投げかけなければならない。東大大学院でAIの研究をしている松尾豊さんは「ChatGPTは頭の悪振りをしている。本当は違うけど、こう言っておけば丸を貰える、というような回答をするようにできている。」と言ってる(参照)。すなわち、プロンプトエンジニアとは、AIが本来持っている非常に高い潜在能力を引き出すことのできる人のことである。実際、プロンプト自体がPrompt Baseなどのウェブサイトで売買されている。

2. データ探偵

AIによって新しく生まれる仕事_データ探偵

「データ探偵」とは、企業の大量のデータから謎を解き明かす専門家。彼らの主なタスクは、企業が収集する様々なデータを調査し、それが何を示しているのか、どのような意味を持つのかを理解し、そしてそれをビジネス上の意思決定に有用な形で解釈することだ。

具体的には、以下のようなものがある。

  1. IoT機器やデバイスからのデータ収集:例えばIoT機器のセンサーから得られるデータを解析可能な形に変換し、分析する。
  2. バイオメトリックモニター(生体認証モニター)からのデータ取得:生体情報(心拍数や体温など)をデータ化し、その分析を行う。
  3. コンピューティングインフラからのデータ管理:サーバーなどから生成されるデータを収集し、整理、分析する。
  4. ニューラルネットワークからのデータ解析:人工知能の一種であるニューラルネットワークは複雑なパターンを学習・予測し、それらから得られるデータを解析します。

現在、我々の周りのありとあらゆるものがデータを生成する。その傾向はこれから先もっと増えるだろう。人々の行動パターンを含むあらゆる物理現象を、様々なデバイスを通して感知しデータ化する。その中から有用な情報を引き出し、ビジネスの意思決定に役立つ洞察や推奨を提供するのがデータ探偵。好奇心が強く、困難にも負けず、一見無関係に見える情報からでも有益な洞察を引き出す能力が求められる。

データ探偵はまた、ビッグデータのツールを使いこなす技術も必要とするが、必ずしもデータサイエンティストである必要はない。データの細部に深く入り込む一方で、全体像を見る視野も持っている必要がある。これらの能力により、データ探偵は企業のデータを「語らせる」ことができ、それによって企業の成長や革新に貢献する。

3. AI倫理専門家

AIによって新しく生まれる仕事_AI倫理専門家

この役割は「AIが安全で倫理的な方法で使用されることを確保する人」と定義されている。AI倫理学者は、「アルゴリズムシステムのバイアスを減らし、公平性を増すことによって、すべての人が仕事を得るのを助ける」専門家のことである。

AIは使用するアルゴリズムやデータセットによってはバイアスがかかってしまうことがある。また、使用するデータが他者や他社のプライバシーを侵害しているかもしれない。AIは強力なツールであるが故に作り方、使い方を間違えた場合のリスクが大きい。実際にChatGPTはプライバシーを侵害したとしてイタリアなどで使用禁止されている。

AI倫理専門家が行うことは主に次のようなことであろう。

  • バイアスのない公正なAIシステムを保証
  • 個人のプライバシーが守られているかを保証
  • AIシステムの透明性と理解可能性、説明責任を確保

AIを使ってカスタマー向けに大規模な事業展開をする会社にとって、自社のAIシステムがAI倫理的にクリーンかどうかはとてもに気になるものに違いない。

4. 歩いて話す人

AIによって新しく生まれる仕事

AIが多くの仕事を自動化していくことで、仕事のある人も無い人も新しい雇用を求めるようになる。また、技術革新により人々はより長生きをするようになるだろう。そうなると人々はより「人間らしさ」を取り戻そうとするかもしれない。人と触れ合いたい。それこそが人間の生き方である、と。

そのようなふれあいに対する需要が一気に増加するとコンサルティング会社のCognizantは見ている。この仕事についた人は、人々とともに歩き、話を聞き、話をするという。また、聞く割合:話す割合=10:1の比率で時間を共有することになる。話を聞くだけと言っても一定以上のスキルが必要だ。相手の話に反応し、さらなる話へと導かなければならない。

5. AI補助付きヘルスケア技術者

AIによって新しく生まれる仕事_ヘルスケア

AI補助付きヘルスケア技術者とは、医療分野でAI技術を活用し、患者のケアと診断を行う専門家のことである。通常の臨床医療だけでなく、リモートヘルスケアの提供にも関与することになるだろう。AI技術は、患者とリモートでつながり、医師からの適切な治療を効率的に提供する役割を果たす。

この職種の担当者は、通常の診療の他に、脆弱な患者や高齢者へのリモートヘルスケアにも取り組むことが求められるという。そのため、看護や関連する分野での経験、さらにはソフトウェアやデジタル診断機器の使用に対する理解とスキルが要求される。

具体的な業務内容としては、AI技術とリモートの医師の支援を受けながら、患者の診察、診断、治療の管理、そして適切な治療の指示などである。また、患者との信頼関係の構築やデジタル診断ツールの最適利用など、個々の患者へのケアにも優れた能力が求められる。さらに、チームでの作業や地元の警察との連携なども職務の一部となるだろう。

要するに、AI補助付きヘルスケア技術者は、AI技術を活用して医療サービスを提供し、より効率的で精確な医療システムの構築に寄与する役割を担う。

AIにはない人間の強み

AIには無い人間の強みは、3つあると渡邉正裕さんは言う

  1. 想像力
  2. 感情の力
  3. 信用力

信用力に関して、例えば銀行の窓口業務について考えてみよう。顧客とのやり取りはAIにもできることだ。しかし実際に窓口で働いている人たちは「人間にしかできない」と肌で感じているという。というのも最終的にお金が動くかどうかは、その人の「信用力」に大きく依存するからである。

また、大切な情報は特定の人間が保持しているものだ。ネット上にばら撒かれたりはしない。どんなに優秀なAIでも情報ありきである。その「特定の情報」がAIに共有されることが大前提となるケースも考えられる。

今、私たちの仕事が再考される時代において、改めて人間の強みに目を向けることが重要では無いだろうか。人間とは何か、どう生きるべきか、という問いにより多くの人が向き合える時代となったのかもしれない。

参考:21 jobs of the future, 5 New Jobs Created by AI